2008年4月23日水曜日

咀嚼(運動)を 忘れそうな現代人

ヒトの進化の歴史は,荒ぶる地球の大陸移動や気候の激変による飢
餓と戦いによる絶滅の歴史であり,幾度も絶滅の危機一歩の歴史でもある.

地球の歴史は46億年
生物としては 40億年
脊椎動物として 5億年
哺乳類として 一億年
霊長類として 6000万年
人類として 700~450万年 猿人 原人 旧人 新人と進化した.
猿人から新人に進化する過程で、形として目立ったことは、脳が大きくなったこと、歯とアゴが小さくなったことである。
猿人は、 500年前アフリカの森の中で二本足直立歩行し
原人は、170万年前 アフリカを出て ヨーロッパやアジアに広がった。
その子孫から、50万年前に 旧人が 誕生
ヨーロッパに広がって3万年前まで新人と共存していた。
アフリカで誕生した 新人ホモサピエンスとして 15万年
10万年前 アフリカを出て 世界各地に広がった
アジア人として 5-6万年 インドネシア付近のスンダランド
そして 日本人として 3万年
石器時代,縄文時代,弥生時代そして現代まで、猛獣、飢え、病気、戦争に悩まされながら生き抜いてきた。
我々が今生きているのは、我々の祖先が、無数の苦難をうまく生き抜いてきたのは、絶滅の危機を乗り越えるために、知恵を出し合って工夫してきたおかげなのです.
ホモサピエンスとは、知恵のある猿という意味である。
日本人の歴史の中で,ムシ歯が出来はじめ,歯並びが悪くなりはじめたのは,
縄文時代(約12,000年前から約10,000年前)である.
縄文時代から,火を使った調理による柔らかな食物を食べるようになって,食べられる食物が広がり、食物を貯蔵できるようになり、飢餓から抜け出してきた。
気候変動による,食物の収穫が変化し,栗などのデンプンを煮炊きしたかゆ状の食物が,縄文時代のムシ歯や不正な歯並びとかみ合わせの犯人である.
石器時代には,ムシ歯もほとんどないし,歯並びの不正もあまり起こっていない.
ムシ歯や歯並びが悪くなったその原因は,火を使っての調理からなる土器の発明である.しかし縄文時代は,歯並びが悪いのは,現代人よりも,きわめて少なく,歯列不正は,主に前歯に限られていた.ムシ歯も
はるかに少ない.

食文化の変遷により、何とか生き延びてきたが、反面失うものも出てきた。
それは、ムシ歯だけではなく,
歯並びの悪い軟弱なアゴと
噛む力(咀嚼筋の筋力)の低下,
そして,歯と歯の接触状態の悪さ(かみ合わせのバランス)さらに
アゴ関節の変形は,深刻な状態になっている.顎関節症である.
噛まなくてよい食事のために,噛む筋肉の低下とともに,歯並びのでこぼこの不正(左右前後の不揃い),上下のかみ合う接触歯の面積の低下によるかみ合わせ不安定症,関節の変形による顎関節症,顔全体の形の変化と関係してきている.

戦後の日本,昭和39年以降,平成生まれの人、時代とともに 食の変遷は,ますます 軟食とファーストフードへと変化している.

次世代の子供たちのためにも、日本人の軟食志向を根本から正す乳幼児からの「食生活習慣」の改革が必要である.
頭を鍛えるのもよいが,体の足を,顔を鍛えることを,そして心を鍛えることが足りない時代になってきたかもしれない
歯科医師たちは,より懸命に啓蒙し,
乳幼児期から子供のアゴと咀嚼筋を鍛え,健全な食生活習慣を身につけさせて,80歳まで健全で噛みしめられる歯を,20本以上維持して,老後の豊かな食生活を
楽しくするため役立つように社会に貢献したい。

もしかしたら,ホモサピエンスの現代人は,
現代文明の進化とともに,動物としての咀嚼運動だけでなく、足などの身体の運動機能低下が起こっている。また幼児期から心を解放することなしに管理され,心から体を使うことで発散きるストレスを貯めてしまい,体も心も病んできていないかという事が危惧される.良く咬むことや歯ぎしりは、ストレスを発散することが証明されてきている。身体を動かす適度な運動も、ストレスを発散させ、友人を作り、心を穏やかにする。
猿人からホモサピエンスとなるまで,20種ぐらいの人類が絶滅している.ヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人も3万年前に
なぜ絶滅したか解明されていない。もしかしたらヒトは、高度の発達した文明のために、反面
動物としての運動機能の体が病み、心が解放できずに、知らず知らずに絶滅の危機がちかづいているのかしれない.
地球で,太平洋プレートが一年間に8センチ北上しオーストラリアが,6000万年後は日本にぶつかる大陸の移動が起こっていると言われている.


参考文献   馬場悠男,金澤英作 編者 「顔を科学する」Newton Press
井上直彦 増える不正咬合 なにが顔の変化をもたらしたか
「顔を科学する」Newton Press


2008年4月15日火曜日

進化したサルは眼がいい

進化したサルは眼がいい

動物が生き延びるために必要なことは二つ。他の生物を食べることと、他の生物に食べられないことだ。動物の情報処理能力は生き延びるために発達した。

以下、NHKスペシャル「地球大進化」で得た知識。

真猿類は、眼球の「揺れ」を低減してシャープな視覚を得るための「眼窩後壁」を備えている。そして、網膜の上に視細胞が集まった領域「フォベア(中心窩)」を備えているのは真猿類だけ。つまり進化したサルほど眼がいい。

むしゃむしゃと物を食べているとき、眼窩後壁を持たないサルはアゴの動きにつられて眼球が揺れ、視界がぼやける。またフォベアを持たないサルは、シャープな視界を得ることはできない

一般的な哺乳類は色覚細胞を二色しか持たない。三色性の色覚を持つ哺乳類は昼行性の霊長類だけ。色覚は、世界の乾燥化が進む中で色が違う葉っぱを見分け、より多くの食料を得るための機能だった。

シャープな視覚、両眼を使う立体視、フルカラー映像と、より多くの視覚情報を処理する能力を霊長類は発達させた。

眼がいいことは、生き延びる上で有利だったからだ。


http://hoshi.air-nifty.com/diary/2005/01/index.html

眼窩後壁 カトピテクス


6500万年前の隕石衝突による恐竜の絶滅以降、地上の制覇者は2メートル、200キロという大きさを持つディアトリマという巨鳥であった。哺乳類の先祖たちは恐竜が寝静まった夜間に餌の確保を選んだ。夜間に餌を確保するため巨大化(夜に確保できる餌の量は少ない)や色覚を喪失する結果となった。鳥類が飛ぶエネルギーを巨大化に充てることができ短期間で巨大化が可能であったことに対し、当時の哺乳類は出遅れてしまい、ディアトリマが地上の支配者となった。



霊長類の祖先と現在考えられているのはプレシアダピス類という小動物だ。彼らは現生のねずみほどの大きさで、夜の活動していたようだ。しかしアジアから渡ってきたげっ歯類により絶滅の危機に追いやられた。それを切り抜けるためにプレシアダピス類のカルポレステス(「果実を食べる人」という意味」)という種が親指が他の指に向かって曲がっている手を獲得する。握力の獲得である。握力のある手足を使って、細い枝をつかんで枝先に移動し、枝先にある果実を食べることができるようになった。



霊長類のもう一つの特徴は二つに並んだ眼窩持っていることである。樹冠で木から木と飛び移る生活(果実が豊富で天敵が少ない)を可能にするには隣の木の枝までの距離を正確に測ることが必要となる。それには立体視を可能にするために両目の視界が重なる必要がある。
そのためショショニアスという種は眼窩を正面にならべるという進化を辿った。


真猿類の眼窩は骨で囲まれたソケット上の窪みになっていて、頭蓋骨内部と仕切られている(眼窩後壁と呼ばれる)。
 眼窩後壁が果たす役割は咀嚼筋の動きと眼球を分けるためにある。
眼窩後壁がないと咀嚼のたびに視界が揺れてしまうのだ。


 また眼窩後壁を持つ真猿類の網膜にはフォベアと呼ばれる視細胞の集中する場所がある。
フォベアがあると光を感知する視細胞の密度が上がり風景はよくはっきりと見える。
せっかくフォベアにより獲得した高い視力を守るためのシステムとして眼窩後壁は発達したのだ。



色覚は一度外敵から身を守るために夜の世界に生きる道を求めたために失われている。
原始的な霊長類や哺乳類のほとんどは

二色色覚(青と緑視細胞


三色色覚(プラスを見分ける視細胞)を獲得することによって

葉食を可能にした。

三食色覚があることにより(熱帯雨林における)
い若葉との成長した葉を見分けることが可能になる
(若葉は消化も簡単で毒素も少ない)。
地球寒冷化によりアフリカには季節性が生まれ、乾季が発生した。
果実のない乾季に葉を食べる必要があったのである。



一方、目が正面に並ぶことで視野は狭くなる。
視野の狭さは天敵の危険を察知する能力が低下することを意味する。
ワシなど視力の高い動物から身を守るためにサルたちは群れを形成することで協力して天敵を見張り、追い払う戦略を取った。

真猿集団の集団戦略の特徴は役割分担と個体識別にある。
利己的にそれぞれが自らの生存を図るだけの集まりから脱して、共存共栄を図る仲間としての集団へと進化したのだ。



現生の真猿類には豊かな表情を持つという特徴がある。
真猿類を除いて、大半の動物にはほとんど表情がない。
真猿類の顔の筋肉は、口の周りや目の周りを中心に、非常に細かないくつもの筋肉が存在している。
原猿類の顔の筋肉は細かく分かれていない。

これにより可能となるのが表情によるコミュニケーションである。それが高い視力を持ったことにより可能となったのは言うまでもない。
表情により瞬時に複雑なコミュニケーションが可能となったことで群れの秩序が守られることになった。
群れの仲間とうまくやる、つまり社会のなかでうまく生きていくために進化したものが表情の豊かさであった。
群れの中でより意思疎通が取れている群れは協力や分業で生き残る可能性が高くなる。
ここで淘汰の基準が「共に生きる能力」におかれることとなった。



参考文献:「地球大進化 46億年・人類の旅 5 大陸大分裂」(NHK出版)





カトピテクス  学名(Catopithecus browni  )
分類 哺乳類・霊長目・真猿亜目・プリオピテクス科
生息時代 第三紀中期
生息地域 北アフリカ(エジプト)
体長 cm
現在、霊長類にはキツネザルなどの「原猿類」とそこから
進化した「真猿類」と2つのグループに分けられますが
この「カトピテクス」はもっとも初期に現れた真猿類です。

真猿類の共通する特徴は眼窩の奥に「眼窩後壁」と呼ばれる
骨の壁があり、眼球を固定するソケットをつくりました。

現在の真猿類の眼球には「フォベア」と呼ばれる視細胞の集まり
があり、視界の中心の視力が大幅に上がりました。
そのため、
視界の中心がぶれないために眼窩後壁で眼球を固定する必要が
あったといわれています。

カトピテクスが現れた時代は寒冷化が進み、エサである果実が
なる森林が減少していきました。そのため視力を発達させて
食べ物を効率的に見つける必要があったと考えられています。

ヒトを含む88種の霊長類の目の形態を調査した結果、原猿、オマキザル上科(いわゆる新世界ザル)、オナガザル上科(旧世界ザル)、ヒト上科(類人猿)の順に、目の形が「横長」になり、強膜(ヒトでいう白目の部分)の露出度が大きくなるようです。ヒトは、霊長類の中で最も目が横長で、強膜の露出の大きい種なのだそうです。(35810)

共認機能の進化に連動して眼が横長になる、強膜も露出し角膜運動が自由になる、という事実は興味深いと思いました。ただし、大型化と省エネルギーから眼球運動に移行したという見解と、白目の機能についてはまだ確信できませんが。むしろ、知能発達と大型化が相関していると考えたほうが整合するのではないかと思っています。

まず、霊長類の視覚機能の発達というのは、入力装置としての眼の機能の発達をはるかにしのぐ脳の統合機能の進化に委ねられているということは、この会議室で何度も議論されているところです。そして、眼球移動だけで視界を自由に変えられると言うことは、短時間に入力される視覚情報量が途方も無く増えるという事だと思います。

例えば、人間の視野のうち、まともに焦点が合って見えているのはほんの一部だけです。しかし、眼球を動かしながら、例えば180度の部分写真をとり、歪んだもとデータを頭の中で補正しながら合成して、あたかも180度全体がはっきり見えているように解釈しています。(19975 )

このように、脳の統合機能の発達(≒知能の発達)がなければ眼球移動がもたらす短時間での視覚情報量の増大も無意味になってしまいます。だから、知能の発達と眼が横長になる進化は連動しているのだと思います。

次に、共認機能の発達と眼が横長になる進化の関係は親和共認レベルから闘争共認レベルへの移行と大きく関係していると思います。共認機能と相手とのコミュニケーションとの関係を考えるとき、相手の表情の把握は一つの要素になります。しかし、それは原猿の親和共認のレベルであり、対面若しくは近くに居る仲間を捉えるために、多少の眼球移動が必要という段階だと思います。

>同類の表情を読みとるためには、単なる視覚情報を感覚情報として受け入れるだけでなく、視覚をまかなう脳回路を親和物質や充足物質へと、新たに組み直したのではと思います。危機逃避回路にはもともと接続されていたのでしょうが、この段階で視覚を中心とした感覚機能と親和充足系の脳回路とが接続され、人類へと至っているのでは?と思います。 (34964村上さん)

このよう原猿段階では眼球移動より、視覚情報を処理する脳回路を親和物質や充足物質ともつなげる方が重要だったと思います。現に原猿段階の眼の横長度(=眼球移動の容易性)はあまり高くありません。その後、知能の発達が進みますが、真猿以降で特に顕著になります。それと並行して眼が横長になる進化も顕著になります。


http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=37379

2008年4月8日火曜日

下顎張反射  開口反射

下顎張反射(かがくちょうはんしゃ)とは、閉口筋の急激かつ一過性の伸展により生じる閉口の反射を言う。膝蓋腱反射と同様な伸展(伸張)反射である

閉口反射(へいこうはんしゃ)は歯根膜-咬筋反射ともいい、リズミカルな咀嚼を生み出す。その反射弓は閉口筋筋紡錘→三叉神経中脳核ニューロン→閉口筋運動ニューロン→閉口筋の経路をとり、単シナプス性反射である。



開口反射(かいこうはんしゃ)とは、顔面口腔領域に対する侵害刺激によって急激な開口運動が引き起こされる反射である。侵害刺激で生じる開口反射には、口腔粘膜に対して侵害的に作用する外来物を吐き出すなどの意義を持つ。また、非侵害刺激でも誘発され、咬合力の調整に役立っていると考えられている。三叉神経上核に位置する抑制性介在ニューロンによって閉口筋が抑制されて開口が起こり、開口筋が積極的に関与することはないと言われている。

咀嚼運動は随意運動に属するが、他の骨格筋による運動と同じように細かな調整は反射(不随意運動)でななされている。また、様々な外的刺激に際して生体を防御する反射機構も備わっている。開口反射は、その防御的意味の強い反射で、口腔や口腔周辺に侵害刺激が加わった場合に生じるものである。食事中に石や砂を噛んで反射的に口を開くのは、この反射である。

口腔粘膜や口腔周辺の皮膚、歯牙(歯根膜の圧受容器)に刺激が加わると、これらの情報は三叉神経第2枝(上顎神経)及び第3枝(下顎神経)を求心路として中枢に向かう。中枢では、延髄の主に三叉神経主知覚核や三叉神経脊髄路核で介在ニューロンとシナプス結合し、更に介在ニューロンは三叉神経運動核で運動ニューロンとシナプス結合する。この運動ニューロンは三叉神経支配の筋を直接動かし、口を開かせる。

2008年4月7日月曜日

プロトスタイリッド

プロトスタイリッド

プロトスタイリッド
(protostylid) は歯の形態異常の一つ。下顎大臼歯及び乳臼歯の近心頬側面に出現する、筆状の過剰結節のこと。

第二乳臼歯、第一大臼歯に好発する。同部位に発生する臼傍結節とは成因が異なるものと考えられている。





ISSN : 1344-3992
Anthropological Science (Japanese Series)
Vol. 114 (2006) , No. 1 pp.63-73
[PDF (860K)] [引用文献]


歯科人類学におけるカラベリー結節
近藤 信太郎1), 金澤 英作2), 中山 光子2)
1) 愛知学院大学歯学部解剖学第二講座
2) 日本大学松戸歯学部解剖人類形態学講座
(received April 21, 2006)
(accepted May 23, 2006)
要約 ヒトの上顎大臼歯と第二乳臼歯に見られるカラベリー結節は最もよく知られた歯冠形質のひとつである。この形質に関しては様々な観点から多数の研究が行われてきた。本稿では最近の研究を紹介するとともに,この形質が歯の人類学に与えた多くの課題を3つのキーワード「分布」,「遺伝」,「系統と発生」にしたがって検証した。「分布」の項では形質の基準,集団間の違い,ヨーロッパ人にカラベリー結節が多く見られる理由を検討した。「遺伝」の項ではカラベリー結節の遺伝,左右側の非対称性,性染色体とカラベリー結節,性差について考察した。「系統と発生」の項ではカラベリー結節の系統発生と個体発生,カラベリー結節は大きい歯にみられるのか,に関して検討した。歯の内部構造の研究方法の開発や分子生物学的な研究によりカラベリー結節は多方面からより詳細に研究され,未解決の課題が解明されることであろう。
キーワード 集団間変異, カラベリー結節の遺伝, カラベリー結節の発生, 歯帯, 性染色体

ドリオピテクス 類人猿

1.ドリオピテクス 類人猿

2.アウストラロピテクス 猿人

3.ホモ・ハビリス

4.ホモ・エレクトス 原人

5.ネアンデルタール人

6.ホモ・サピエンス 現代人
左:ドリオピテクス右:アウストラロピテクス


左:ホモ・ハビリス右:ホモ・エレクトス


左:ネアンデルタール人右:ホモ・サピエンス

ドリオピテクス・パターン

ドリオピテクス・パター ン
ドリオピテクスです。
人につながるチンパンジーに似た 化石のサルのことです。

画像

ドリオピテクス

ラマピテクス

1932年、北インドのシワリク丘陸から4本の歯のついた頭蓋骨が発見された。発見された頭蓋骨の特徴として、犬歯が小さく、歯列弓が放射線形、エナメル質が厚いなどゴリラやチンパンジーとは異なり類人猿からヒトへとつながる初期人類と1965年に発表された。


Rama.jpg


1965年に発表された時点では、骨盤が未発見、歯列弓が放射線形でない可能性、ヒトとチンパンジーが分岐したのは500万年前と考えられていた、ラマピテクスとシバピテクスがともに出土されるなどの問題点があった。

1981年にパキスタンのポトワからGSP1500が発見
そ の結果、上顎骨はラマピテクス、下顎骨はシバピテクス。前頭洞がない、左右の眼が近接しているとオラウータンの特徴と似ているため、ラマピテクス、シバ ピテクスは初期人類ではなくオラウータンの祖先だということが明らかになった。また分子系統学の発達によりヒトと類人猿、特にチンパンジーとの分岐年代は 600万年前と考えられるようになった。

現在の考え方は以下の通り

Now.jpg


前回、地球と人の歴史 Part 10 ~ドリオピテクス類~の記事はこちら

國松 豊(2002)ヒト科の出現 -中新世におけるヒト上科の展開-. 地学雑誌 116(6):
798-815.
國松 豊(2002)東部ユーラシア新第三紀の化石類人猿. 霊長類研究 18(2): 97-129.
國松 豊(2003)テナガザルの進化はどこまでわかっているか? 霊長類研究 19(1):
65-85.

類人猿化石を産出する主な地域
ヒトを生んだ者たち~類人猿2500万年の進化


京都大学霊長類研究所/形態進化分野
國松 豊


類人猿はヒトの最も近い仲間であって分類学上はともにヒト上科(Hominoidea)をつくる。
しかし、彼らは今日の世界では繁栄したグループであるとは言い難い。現生類人猿として
は,アフリカにゴリラ(Gorilla gorilla),チンパンジー(Pan troglodytes),ボノボ(Pan
paniscus)の3種,アジアにオランウータン(Pongo pygmaeus)と小型類人猿であるテナガザ
ル類(Hylobates spp.)が約10種棲息しているにすぎない。最近では,大型類人猿各種で,
これまで亜種として扱われていた地域集団間でも遺伝的なちがいが非常に大きい場合が
あることがわかってきたため,従来の亜種を種のレベルに格上げする場合もある。とはい
え,種数の増加はわずかである。これに対して,現在のアフリカやアジアで多くの種に分
化し,棲息域も広いのはオナガザル科(ニホンザルなど、いわゆる旧世界ザルの仲間)で
ある。この仲間は大きくオナガザル亜科とコロブス亜科に分かれるが,どちらの亜科もアフ
リカとアジアにまたがって分布している。
しかし,時代をさかのぼると,中新世においては、類人猿は現在よりもずっと広い範囲で
繁栄していた。最古の類人猿とおぼしき化石は東アフリカ(現在のケニヤ北部にあるロシド
クという産地)の漸新世(2500万年前)の地層から見つかっている。その後、中新世に入る
と、プロコンスルやアフロピテクス、ナチョラピテクス、ケニヤピテクスなど、類人猿がたくさ
ん現れる。といっても、アフリカ(アラビア半島を含む)における類人猿化石の発見は、いま
はまだ、その大部分がケニヤを中心とした東アフリカに集中しており、アフリカの他の地域
からはほとんど見つかっていない。ただ、少数とはいっても、サウジアラビアや南アフリカ
から見つかった化石から、類人猿は中新世前期の1800万年前頃までにはアラビア半島か
らアフリカ南端まで広く分布していたことがわかる。
アフリカ大陸は何千万年ものあいだ比較的孤立した陸塊だったが、この頃になるとユー
國松(2)
ラシア大陸とのあいだに陸橋が形成され、陸生動物の移動が容易になった。類人猿の仲
間もアフリカからユーラシアに進出した。ユーラシア最古の類人猿化石はヨーロッパから見
つかっており、だいたい1700万~1600万年前の大臼歯のかけらである。中新世中期から
後期(1300万~700万年前)には類人猿はヨーロッパや南アジア,中国などユーラシア各
地に棲息域を広げていた。ヨーロッパのドリオピテクス、インド・パキスタンのシヴァピテクス、
中国のルーフォンピテクスなどが代表的なものである。逆に、アフリカではこの時代やそれ
以降の類人猿の化石はほとんど見つかっていない。ユーラシアでも、中新世後期もなか
ばを過ぎると,類人猿の化石は非常に少なくなる。ヨーロッパでは1000万年前をやや過ぎ
たあたりで、類人猿相が衰退した。インド亜大陸の北部でも、700万年前頃を境に類人猿
が化石記録から消えていった。これらは、ヒマラヤ・チベット高原の隆起活動などによって
世界的な気候の変動が起き、類人猿の棲息に適した環境が縮小したためだと考えられる。
これ以降、鮮新世に至ってはいまのところ類人猿化石は皆無に等しい。更新世になると,
中国南部や東南アジアでオランウータンやテナガザルの化石が若干出土しているが,ア
フリカのゴリラやチンパンジーに直接つながるはっきりした化石は何も見つかっていない。
かわって各地でオナガザル科の霊長類(旧世界ザル)が台頭し、現在のようにアフリカとア
ジアで多様化を遂げた。
グループ全体としては凋落傾向にあったヒト上科であるが、数万年前、ヒト上科のなかで
著しく特殊化した系統の末裔がアフリカを後にして全世界に拡散をはじめた。Homo
sapiens—つまりわれわれ現代人の直接の祖先である。彼らは、ユーラシア大陸はもとより、
オーストラリアや南北アメリカ大陸にも分布を広げ、人口を増やしていった。現在の世界人
口は60億人を超える。現存するヒト以外の全霊長類の個体数を合わせても、この何百分
の一にしか達しないだろう。ある意味、ヒト上科は空前の大繁栄を享受していると言えるか
もしれない(もっとも、このまま行けば、Homo sapiensが地球上に生存する唯一のヒト上科
動物になる日も遠くはないのかもしれないけれど)。

<もっと詳しく知りたい人のために>